当研究所の研究

【53】自閉症スペクトラム児の実行機能の測定の試み

段階
小学校段階
カテゴリ
子どもの特性、実態把握に関すること

平成23年度研究紀要第39巻「翻訳版BRIEFによる自閉症スペクトラム児の実行機能の測定の試み-子どもの実行機能の測定ツールの開発に向けて-」より

 キーワード:自閉症スペクトラム児、実行機能、アセスメント 

 


【PDF版】


 【この論文では】
 著者らが翻訳したBRIEF(Behavior Rating Inventory of Executive Function,PAR社, Gioia, et al.,2000)の質問紙を試用して、自閉症スペクトラム(autism spectrum disorders,以下ASDと略す)児の実行機能の特性、及びそれと知能との関連性を調べました。
※※※※ 研究の背景※※※※
仕事や勉強を効率よく行っていくために、私たちは様々な方略を使っています。たとえば、「目標を設定す
る」、「計画を立てる」、「優先順位を決める」、「柔軟に注意を切り替える」、「行動を振り返る」などです。目標を達成するために行動や思考をコントロールする、このような高次の認知機能は、しばしば“実行機能”と呼ばれています。
実行機能の困難は、ASDをはじめとする中枢神経系の様々な障害と密接に関係していると考えられています。
海外では、ASD児など学習面や行動面のつまずきのある子どもの支援として、実行機能のアセスメントが活用されるようになってきています。しかし、我が国には、実行機能を評価するための標準化ツールはほとんどありません。
実行機能を評価する方法には、神経心理学の分野で開発されたパフォーマンス課題によるアセスメントがありますが、著者らは“学校で活用できる”という観点から、米国で開発されたBRIEFに注目してきました。
BRIEFは、検査室のような特別な環境下で実施されるパフォーマンス課題ではなく、子どもの日常の行動から実行機能の様々な側面を評定する生態学的妥当性の高い心理尺度です。
本研究では、著者らがPAR社の許可を得て翻訳したBRIEFを試用し、ASD児20名、学習困難児16名、定型発達児21名の実行機能のプロフィールを比較し、BRIEFのような心理尺度によるアセスメントの実用性や有用性を検討しました。

 

【論文の中で,最も強調したい点】
 本研究では、以下のような2つの知見が得られました。
1 予想したとおりASD1.、児では、定型発達児や学習困難児に比べて実行機能の困難が有意に大きいことがわかりました。ただし、学習困難児と比較した時、ASD児の実行機能の困難は、“行動調整”の領域で大きく、“メタ認知”の領域では違いがないことがわかりました。このことはASD特有の困難が“行動調整”の領域にあることを示唆しています。
2.ASD児においては、言語性IQと“メタ認知”の成分である“ワーキングメモリ”との間に有意な負の相関が認められました。つまり、ASD児では、言語性IQが高いほど、“ワーキングメモリ”の困難が小さいことを示唆しています。
これらの結果は、BRIEFのような質問紙によるアセスメントがASD児の実行機能の特性を把握するための有用なツールとなり、彼らの教育や支援について様々な示唆を与えてくれる可能性があることを示しています。

 

【執筆者】
玉木宗久・海津亜希子

 

【論文名】
翻訳版BRIEFによる自閉症スペクトラム児の実行機能の測定の試み-子どもの実行機能の測定ツールの開発に向けて-


【もっと詳しくお知りになりたい場合は】

この論文は研究所webペジにて全文掲載されています
http://www.nise.go.jp/cms/resources/content/6862/39_4.pdf
(国立特別支援教育総合研究所研究紀要,第39巻,45-54.)

 

【本研究紹介シートの文責】

玉木宗久

 

本研究紹介シートは、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所で行った研究を基に作成しています。