こだわりがあるのですが・・・(※関連動画あり)

関連動画

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具体的なつまずきの例

 あきこさんは描画や手仕事が得意です。WISCーIIIの検査後、帰宅して絵画配列の問題の絵を正確に描き、家族に検査の説明をしました。 一方で、まっすぐな線を引く作業を行う際には、そのことにこだわり作業が滞ってしまいました。
 そこで、先生はアセスメント(子どもの様子をじっくりと見て、どんなことがこのつまずきに関連しているかを考えること)をしてみました。

 そのあきこさんが図画工作の時間に絵を描き、カッターナイフを用いて段ボールで額縁を作る課題に取り組みました。額縁はわずかに弧を描いてしまい、あきこさんは渋っていましたが、先生は絵を固定する作業を促しました。あきこさんはつぎの時間以降ぼんやりして授業に参加せず、翌日から学校を休んでしまい、お母さんに「額縁がうまくできなかった」と話しました。
 そのほかあきこさんは、衣類や靴下など身につけるものや持ち物等はピンク系のものを好み、靴はここ数年間同じデザインのサイズ違いを履いています。

 

ここで行われたアセスメントのポイント!

  • 一見して分かるようなこだわり行動だけではなく、学校での日常的な行動や表情にも注目したきめ細かな観察を通して、微妙なこだわりを把握する
推測できるつまずきの要因
  • 強い同一性保持がある
  • 自分が得意な分野におけるこだわりが強い
  • 意思を表明する力が弱い

指導編

具体的な指導・支援の例

アセスメントに基づいて、担任の先生は、次のような指導を行ってみました。

  1. 衣類などの色や靴のデザインへのこだわりなど一見して分かりやすいもの以外にも、本児の様子を観察し、周囲には分かりにくいこだわりがあるかどうかを観察する
  2. 保護者からの情報をもとに、得意な描画や手仕事では自分が納得できるような作品を作りたいという強い気持ちが本児にあることを理解し、その気持ちをプラスのものとして受け止め、学級の全体に伝えていく
  3. 表情やしぐさを手がかりにして、作品の出来映えに対して感じている本児の不満足感を受け止め、「頑張ったのにうまくできなくて、気に入らないのね」等と言語化して、先生が本児の気持ちを理解していることを伝える
  4. 不満足な作品について、本児がどうしたいかをことばにして確認する。”やり直したい”という気持ちがある場合は、その気持ちを尊重する
  5. ”やり直し”をどのような場や時間でするかの選択肢(家庭でするか、休み時間あるいは放課後するか等)を提示し、本児に選択してもらう。本児の選択を尊重し、取組みを励ます
  6. できあがった作品については学級の仲間にも披露して、学級全体で本児の努力を賞賛する

行った指導・支援の意味

衣類などの色や靴のデザインへのこだわりなど一見して分かりやすいもの以外にも、本児の様子を観察し、周囲には分かりにくいこだわりがあるかどうかを観察する

Aのように、子どもの学校生活全般を注意深く観察し続けることで、比較的すぐ分かるこだわり以外の微妙なこだわりに気づいていくことができます。

保護者からの情報をもとに、得意な描画や手仕事では自分が納得できるような作品を作りたいという強い気持ちが本児にあることを理解し、その気持ちをプラスのものとして受け止め、学級の全体に伝えていく

Bのように、家庭と子どもに関する情報をこまめに交換することで、先生には話せなくても母親に話せる子どもの場合、子どもについての情報をより早く先生がキャッチでき、子どもへの配慮が行いやすくなります。

描画や工作などは作品を時間内に仕上げるために、不満足なまま作品の提出を余儀なくされている子どももいるかもしれませんが、作品を自分が納得できるよう仕上げたいというこだわりは、通用しないものです。しかし、Bのようにこれをポジティブな意欲として受け止め、学級の仲間たちに伝えていくことで、本児と先生の間に信頼関係が形成されていくことが期待できます。

 

表情やしぐさを手がかりにして、作品の出来映えに対して感じている本児の不満足感を受け止め、「頑張ったのにうまくできなくて、気に入らないのね」等と言語化して、先生が本児の気持ちを理解していることを伝える
不満足な作品について、本児がどうしたいかをことばにして確認する。”やり直したい”という気持ちがある場合は、その気持ちを尊重する
”やり直し”をどのような場や時間でするかの選択肢(家庭でするか、休み時間あるいは放課後するか等)を提示し、本児に選択してもらう。本児の選択を尊重し、取組みを励ます

意思表出の乏しい子どもの場合、本児の意欲のある分野でC~Eのように細かなステップを踏みながら対応することで、意思を表出していくスキルを学習していくことが期待できます。

 

できあがった作品については学級の仲間にも披露して、学級全体で本児の努力を賞賛する

BやFのような配慮から、本児に対する学級の子どもたちの理解を得られるようになっていくことが期待できます。

【文責:大柴 文枝】