【56】通常の学級に在席する発達障害のある子どもの状況に関する調査報告

平成25年度「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の補足調査」より

 キーワード: 発達障害、6.5%、児童生徒の困難の状況、指導・支援の状況 

 


【PDF版】


 【この調査では】 
 この調査は、文部科学省が平成24年12月5日に公表した「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」(以下、「発達障害教育関連調査」という。)結果を受けて、文部科学省協力者会議において、考察・指摘された内容について、補足調査を実施したものです。
 発達障害教育関連調査では、通常の学級に在籍する児童生徒のうち、学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合が推定値で6.5%であるという結果や学年が上がるにつれ、学習面、各行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合が小さくなるという結果等が報告されました。
 この結果を受け、文部科学省協力者会議において、特に4点について今後の調査研究に委ねる必要性があることが指摘されたため、本補足調査では、その状況について把握することを目的としました。

 調査は次の方法で行いました。
 1.質問紙調査


(1)調査時期 平成25年6月
(2)調査対象 全国特別支援学級設置学校長協会等を通じ選定された、都道府県の通級指導教室が設置された小中学校各1校、およびインタビュー調査対象校である小中学校を合わせた96校。各校とも、校長等、特別支援教育コーディネーター、通級による指導の担当者、学級担任の計4名に回答を求めました。
 2.インタビュー調査 

(1)調査期間 平成25年7月~9月
(2)調査対象 首都圏を中心とし、発達障害を対象とする通級指導教室を設置する小学校5校、中学校6校の計11校。各校とも、質問紙調査の回答者に回答を求めました。


【調査をして見えてきたこと】 
(1)6.5%の児童生徒以外にも、何らかの困難を示していると教員が捉えている児童生徒がおり、教育的支援を必要としている児童生徒がいる可能性について

 小中学校とも約55%の教員が、6.5%という数は現状と一致しないと回答しており、一致しないと回答した者のうち、小学校で約83%、中学校で約77%が「6.5%より多い」と回答していました。この点について、児童生徒の困難の状況を教員が主観的にどのように気づき、捉えているかによって、教員が学習面又は行動面で著しい困難を示すと捉える児童生徒の割合が大きく変化する可能性や、知的発達に遅れのある児童生徒が含まれている可能性が推察されました。

(2)学年が上がるにつれて、学習面、各行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合が小さくなる傾向について。特に、学習面において最も顕著である点について

 学年が上がるにつれて、学習面、各行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合は小さくなる傾向があるとの回答が、小学校の約42%、中学校の50%からありました。この点について、児童生徒が学習習慣・生活習慣を身につけていくため、困難さが目立たなくなることや、児童生徒自身が困っている状況に慣れるため、困難について訴えなくなることなどにより、教員が児童生徒の困難を把握しにくくなっている可能性等が推察されました。
 
(3)6.5%の児童生徒のうち、校内委員会で特別な教育的支援が必要とされた児童生徒の割合が約18%にとどまっていることへの、校内委員会の運営と支援の必要性の判断への関与について

 支援の必要性について、小学校の85%、中学校の93%から校内委員会で判断しているとの回答がありました。学年会などで支援の必要性が検討されていると回答した学校もあり、教員の気づきを出発点として、校内委員会のみならず、学校内における様々な機会で個別の配慮・支援が必要な児童生徒への支援の判断がなされている可能性が考えられました。
 
(4)6.5%の児童生徒のうち、授業時間内に教室内の個別の配慮を行っているとされた児童生徒の割合が約45%にとどまっていることについて

 教室内で座席の配置、指示や宿題の出し方など個別の配慮を行っているとの回答があった一方、配慮を要する児童生徒を意識しつつ教室全体に向けた配慮をしているとの回答もありました。このことから,学級全体に向けた支援についての設問項目があれば、さらに多くの学級担任が配慮・支援を行っていると回答した可能性が考えられました。また、通常の学級の担任のスキルアップが課題との回答もあったことから、発達障害の可能性のある児童生徒の特性に応じた指導法が十分に理解できていない場合があることも考えられました。
 
(5)通級による指導をより充実させていくために

 通級による指導では,在籍学級での学びや友人関係を意識した指導が行われており、通級指導について90%以上の教員が「効果がある」と回答していました。さらに、通級指導の担当者は、校内支援においても重要な役割を果たしており,特別支援教育コーディネーターとともに、通常の学級の担任へのアドバイスが学校全体の指導力を高めることにつながっているという回答が多くありました。
 今後、通級による指導の教育効果をより一層向上させるためには、在籍学級や家庭との連携、校内全体で児童生徒の状態や指導方法を共有しやすい環境を構築することが求められます。
通級指導の担当者の専門性の確保も大切となります。

 

【調査実施組織】
 国立特別支援教育総合研究所: 伊藤由美(代表者)・柘植雅義・梅田真理・石坂務・玉木宗久
 文部科学省(研究協力): 樋口一宗・丹野哲弥・助川央

 

【調査名】 
  「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の補足調査(平成25年度)

 

【もっと詳しくお知りになりたい場合は】

 これらの報告書は,いずれも研究所webページにて全文掲載されています。
 http://www.nise.go.jp/cms/resources/content/7412/20140520-153502.pdf

 

【本研究紹介シートの文責】 

 伊藤由美

本研究紹介シートは、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所で行った研究を基に作成しています。