当研究所の研究
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【47】特別支援学級での自閉症教育
- 段階
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小学校段階
中学校段階 - カテゴリ
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指導法・支援方法に関すること
支援体制に関すること
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「自閉症スペクトラム障害のある児童生徒に対する効果的な指導内容・指導方法に関する実際的研究-小・中学校における特別支援学級を中心に-(平成22年3月)」より
キーワード:自閉症スペクトラム、特別支援学級、特別の教育課程、自立活動
【この研究では】
本研究では、「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」の自閉症教育の提言や、発達障害者支援法、通級による指導の対象者の分離(自閉症者と情緒障害者)、また情緒障害特別支援学級の名称変更(自閉症・情緒障害特別支援学級)等、近年の自閉症教育にかかる現状を踏まえ、1年目は知的障害特別支援学級に在籍する自閉症スペクトラム障害(以下ASD)のある児童生徒の実態をアンケート調査で行いました。
さらに2年目は、実態調査等を踏まえて、研究協力校における知的障害特別支援学級や自閉症・情緒障害特別支援学級の自閉症教育を推進するための教育課程の編成の在り方や、自立活動などの指導内容について聞き取り調査等を実施し、その内容を検討しました。
【研究をして見えてきたこと】
1)知的障害特別支援学級に在籍するASDのある児童生徒の実態調査
平成20年度、知的障害特別支援学級の実態調査を行なった結果、知的障害特別支援学級に在籍しているASDのある児童生徒は、小学校で約30%、中学校では約22%在籍していることが明らかになりました。
また下図で示したように、ASDのある児童生徒の知的発達の程度は標準から中・重度と幅広く、適応状態は支援を必要としない程度から、常時支援を必要とする程度まで幅広い実態が明らかになりました。このような実態から知的障害特別支援学級におけるASDのある児童生徒に対し、指導の多様性が求められている現状も明らかになっています。2)研究協力校におけるASDのある児童生徒の自立活動の聞き取り調査
特別支援学級のASDのある児童生徒(25名:小1年~中3年:知的発達の程度は標準~中・重度)の自立活動の指導について、研究協力校における聞き取り調査から次のような結果を導き出しました。
自立活動の聞き取り調査からは、①自立活動の指導内容として、「余分な不安感をもたせないように活動の見通しがもてるようにする」「支障となるこだわりを軽減する」「自己コントロールやセルフマネージメントの指導をする」「状況把握や相手の心情等を理解させる」「適切な対人関係を築くためのコミュニケーションスキルの獲得を指導する」等、児童生徒の実態に合わせた多様な指導が散見されました。
②指導における背景要因としては、「特定の人や物への固執」「時間や数への脅迫的思い」「変化への不安感」「スキルの般化困難」「他者の心情理解の困難」「感情表現の乏しさ」等が想定されました。
③指導における具体的困難さと行動の背景要因から、自閉症の特性と想定される内容をキーワードで示すと、「不安感」「こだわり」「固執」「セントラルコヒーレンス」「心情理解の弱さ」「メタ認知の弱さ」「感情表出の乏しさ」「想像力の弱さ」「セルフコントロールの弱さ」「ぎこちなさ・不器用さ」等が列挙されました。3)研究結果の効用・活用(生かし方)
特別支援学級に在籍しているASDのある児童生徒の実態は、知的発達の程度や適応状態の程度も多岐にわたっていることから、指導も多様性が求められています。そこで、本研究では、視覚障害や肢体不自由特別支援学校の教育課程の編成を参考として、特別支援学級におけるASDのある児童生徒の実態から、教育課程の編成案を4タイプに分けて提案しました。
*学年相応の教科等とは、特に交流及び共同学習の時間において受ける教科や領域を意味しています。
今後は、自閉症・情緒障害特別支援学級のASDのある児童生徒を対象に、教育課程の編成をする際の基準となるような教育内容も提案していきたいと考えています。
【研究に関する関連情報】
特別支援学級においては、知的障害等と重複した状態であれば、教育課程の編成において重複障害者の取扱によることができます。その点も考慮し、ASDのある児童生徒のための教育課程をより適切に編成し、実施するためには、以下の点に留意することが重要です。
① 特別支援学級には、学年が異なる複数の児童生徒が混在していることから、一部複式学級の考え方を取り入れる。
②) 自閉症の特性を念頭において、最初から大きな集団での指導形態が適しているか否か再確認する。特に、知的障害特別支援学級や自閉症・情緒障害特別支援学級等の合同授業が行われるケースにおいて、自閉症の特性を考慮する必要が想定される。
③) 対象児童生徒の交流及び共同学習のねらいを明確にするとともに、体育や音楽などの技能教科や道徳などが自閉症の特性から交流教科に適しているか再確認をする。
④) 交流及び共同学習を実施するにあたっては、交流先の学級の担当教員と対象児童生徒への対応について十分に協議し、特別支援学級担当教員の授業におけるTTによる支援が必要か否かを検討する。
⑤) 時間割を作成する際は、特別支援学級の時間割を優先的に取り扱うようにし、特別支援学級での指導と、交流及び共同学習の指導それぞれのねらいが達成できるよう考慮する。
⑥) 教育課程に基づき、各教科等の指導における個々の児童生徒の具体的な指導目標や指導内容等を記載した個別の指導計画の作成により、指導の個別化を図る。【研究組織】
廣瀬由美子(代表・本シート文責),小澤至賢,渥美義賢,井上昌士,菊地一文,
大城政之,柳澤亜希子,木村宣孝(平成20年度),塚本亜希(平成21年度研究研修員)【研究課題名】
「自閉症スペクトラム障害のある児童生徒に対する効果的な指導内容・指導方法に関する
実際的研究-小・中学校における特別支援学級を中心に-」(平成20~21年度)【もっと詳しくお知りになりたい場合は】
この論文は、研究所webページにて全文掲載されています。
http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_c/c-82-1.pdf
http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_c/c-82-2.pdf
【本研究紹介シートの文責】研究代表者 廣瀬由美子
本研究紹介シートは、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所で行った研究を基に作成しています。