当研究所の研究
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【02】通常の学級に在籍するADHD児の支援の在り方
- 段階
- 小学校段階
- カテゴリ
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子どもの特性、実態把握に関すること
指導法・支援方法に関すること
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「通常の学級に在籍する注意欠陥/多動性障害児への支援の在り方(平成15年3月)」より
キーワード: 通常の学級、ADHD児、二次的な障害、教育相談、事例研究
【この研究では】
教育相談の事例を通して、通常の学級に在籍するADHD児の支援の在り方を検討しました。対象はADHDの診断がある男児1名です。本児は、学習面でのつまずきに加え、行動面でのつまずきがありました。特に、授業中の離席や飛び出し、暴力的な言動などの対応に学校や家庭は苦慮していました。このため、小学校の1年時末から、本児はことばの教室を利用していました。「学校生活や対人接触上の問題への対応」が教育相談での保護者の主訴でした。保護者の相談に加え、以下のような取組を行いました:(a)相談場面での行動観察、(b)在籍校の訪問、(c)ことばの教室の訪問、(d)相談場面での指導、(e)在籍校への介入。(a)~(c)の多面的な実態把握を踏まえ、(d)では本児が成功体験を重ねていくことをねらった活動を実施しました。また(e)では、在籍校、及び担任と協力して、授業の参加を促す工夫や、クール・ダウン用の教室の設置など、様々な配慮を実施しました。これらの実践から、支援に関して多くの示唆を得ることができました。
【研究をして見えてきたこと】
年度初めに認められた授業中の飛び出しや暴力的な言動は、2学期以降に徐々に改善され、3学期にはほとんどなくなりました。相談の経過において以下のような特徴が本児には認められました:(a)周囲から評価されたいという強い願望をもっている、(b)ほめられることに対する喜びが強い、(c)その反面、注意や叱責に過敏に反応する、(d)興奮状態の後、自己を低く評価する。これらのことから推測すると、本児の行動面でのつまずきの多くは、二次的なもの(二次的な障害)であり、自尊感情の低下といった切迫した心理状態が強く関係していると思われました。二次的に現れる行動面のつまずきの改善においては、成功体験の蓄積がカギであることが示唆されました。これは先行知見のとおりでした。また、通常の学級においては、ADHD児のもつ「困り感」を共感的に理解し、その特性やニーズへの教育的な配慮を計画・実施し続けることが効果的であると考えられました。さらに次のような要因が支援の円滑な実施に関係していることが推察されました:(a)在籍級の担任の積極的な態度、(b)学校長のリーダーシップと学校全体の積極的な態度、(c)ことばの教室など、通級指導教室における継続的、かつ専門的な支援、(d)保護者を含め関係者・関係諸機関が相互に連携しようとする姿勢。
【研究に関する情報】
この研究は(独)国立特殊教育総合研究所の研究紀要第30巻に論文としてまとめました。
この論文では、教育相談の経過や指導・介入の内容の詳細を報告しています。また、この研究の一部は、日本リハビリテーション連携科学学会第3回大会発表論文集、及び、日本特殊教育学会第40回大会論文集で報告しました。関係者・関係諸機関の連携という観点やADHD児の行動上の問題への対応という観点から考察を加えています。【研究組織】
玉木宗久・杉田弘憲(長期研修員)・田中紘美(所外研究分担者)・飯田博美(所外研究分担者)・是枝喜代治・渥美義賢【研究課題名】
通常の学級に在籍する注意欠陥/多動性障害児への支援の在り方(平成13~14年度)
【もっと詳しくお知りになりたい場合は】
こちらの報告書は、研究所webページにて全文掲載されています。
http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/kiyo30/tamaki.pdfまた、学会発表論文集は、以下のとおりです。
- 玉木宗久・杉田弘憲・田中紘美・飯田博美・渥美義賢(2002) 通常の学級に在籍する注意欠陥多動性障害児に対する教育的対応の検討.日本リハビリテーション連携科学学会第3回大会発表論文集、第3巻、75-76.
- 杉田弘憲・玉木宗久 ・是枝喜代治・渥美義賢(2002) ADHD児の行動上の問題に対する教育的支援.日本特殊教育学会第40回大会論文集、第40巻、292.
【本研究紹介シートの文責】
玉木 宗久
本研究紹介シートは、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所で行った研究を基に作成しています。