当研究所の研究
-
【51】二次障害の予防的対応を考えるために
- 段階
-
小学校段階
中学校段階 - カテゴリ
-
子どもの特性、実態把握に関すること
指導法・支援方法に関すること
-
平成22ー23年度専門研究B「発達障害と情緒障害の関連と教育的支援に関する研究」より
キーワード:発達障害、情緒障害、二次障害、予防的対応
【この研究では】
発達障害のある子どもは、社会的適応能力に弱い面を抱えていますが、気づかれにくい障害であるために、通常の学級において、他の多くの子どもたちと同様の活動を常に求められます。
そのため、学習面や行動面、対人関係においてさまざまな適応困難な状態を示すことが多くみられます。
発達障害の本来の障害特性による学習面、行動面、対人関係におけるつまずきや失敗経験の積み重なり、まわりからの無理強いなどの不適切な対応の繰り返しは、精神的ストレスや不安感の高まり、自信や意欲の喪失、自己評価や自尊感情の低下などを引き起こし、さらなる適応困難を招いてしまうことがあります。
適応困難の状態には、学習面の難しさだけにとどまらず、不登校やひきこもり、反抗的な態度や反社会的行動等の症状として現れてくることもあります。発達障害のある子どものこれらの不適応の問題は、本来の障害特性である一次障害によるものだけでなく、適切な対応がなされないことなどによる二次障害によるものも多いと考えられます。
本研究では、発達障害のある子どもの二次障害への対応について、その現状と課題を把握することから、予防的な対応について考察することを目的としました。学校現場では、行動問題や不登校等の二次障害に対しては、これまで対症療法的な対応をしてきていることが多く、予防的対応という視点での支援が十分に意識されているとはいえません。また、発達障害の二次障害の症状と情緒障害の症状とは併存することも多いと考えられることから、それらの関連性も踏まえた視点で検討しました。【研究をして見えてきたこと】
発達障害の二次障害は、環境との相互作用とから生じるものと考えられます。また、情緒障害は、医学的にも特定の障害単位として明確に区別されていないことから、心理的・環境的要因により情緒面が安定せず、人間関係や社会生活においてさまざまな不適応を起こしている状態です。
発達障害の二次障害としては、以下のような場合が考えられます。
①本来見られる症状が悪化する場合(例えば、ADHDの多動性、衝動性が激しくなる。)
②本来の症状にはない症状が見られてくる場合(例えば、ADHDに反抗的言動が見られる。)
③本来の症状にはない症状に併存症として診断がつく場合(例えば、ADHDに反抗挑戦性障害が併存する。)
④併存症がある上で、さらなる症状の悪化が見られる場合
したがって、発達障害の二次障害への対応については、本来の症状への対応、併存障害への対応、併存障害に加えてさらなる症状の悪化への対応を含めて、総合的に対応することが重要と考えられます。
教育現場における予防的対応については、障害特性だけでない子どもの全体像の理解の深化と、小さな症状や様子の変化への気づきからはじまり、気づきを環境との相互作用と関係づけて考えることに常に意識を向けておくことが大切です。また、家庭環境の影響も大きいことから、安心できる人的環境と居場所となる生活環境を保障することを、学校関係者と保護者が共通理解し、共に考えていく姿勢が重要です。【研究に関する情報】
本研究では、発達障害の二次障害、情緒障害の症状を把握するために、コナーズの行動評価表、子どもの行動チェックリスト(TRF)及び、教員からの聞き取り等から、4つの領域(本人が示している状態、他者に対して見られる行動、不安・過敏さ、学習場面で気になる様子)について26項目のチェックリストを作成しました。そして、全国の自閉症・情緒障害特別支援学級担任(小学校582校、中学校586校)と、通級指導教室を利用したことのある発達障害のある子どもの保護者66名に対して、チェックリストによる調査を実施しました。その結果からは、これまで見られなかった新たな症状については二次障害という捉えができる反面、すでに見られる症状がさらに悪化している状態については気づかれにくいということがわかりました。また、教員と保護者の二次障害に関する認識の違いも明らかになりました。
本来は発達障害としては対象としていない、病弱特別支援学校や情緒障害児短期治療施設にも、発達障害の二次障害による不適応状態で措置されている子どもが増えてきていることもわかりました。【研究組織】
(研究代表者) 笹森洋樹
(研究分担者) 伊藤由美・梅田真理・植木田潤・廣瀬由美子・渥美義賢・大城政之【研究課題名】
発達障害と情緒障害の関連と教育的支援に関する研究
- 二次障害の予防的対応を考えるために- (平成22年度~23年度)【もっと詳しくお知りになりたい場合は】
この報告書は、研究所webページにて全文掲載されています。
http://www.nise.go.jp/cms/8,122,52,273.html【本研究紹介シートの文責】
笹森洋樹
本研究紹介シートは、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所で行った研究を基に作成しています。