【24】発達障害のある子どもを早期に発見し、その後の育ちを支援するシステムをつくるために
「乳幼児期からの一貫した軽度発達障害者支援体制の構築に関する研究(平成19年3月)」より
キーワード: 乳幼児健診、幼稚園・保育所調査、発達障害児、発見システム、支援システム |
【この研究では】
この研究では、就学前期における発達障害児の発見システムや支援システムがどのようになっているかの実態を調査し、発達障害者への一貫した支援体制、特に乳幼児期を中心にした支援体制を構築するための基礎資料を得ることを目的としました。
この目的を達成するため、3つのアンケートによる実態調査を行いました。
- 乳幼児健康診査における軽度発達障害児の発見・支援に関する調査
(人口規模別に5万人、10万人、20~30万人、40万人以上の市を無作為に抽出) - 個別的な配慮・支援・工夫を要する幼児の発見・支援に関する調査<幼稚園>
- 個別的な配慮・支援・工夫を要する幼児の発見・支援に関する調査<保育所>
また、その調査内容の概要は、以下の通りです。
- 乳幼児健診調査・・・1歳6か月児健診と3歳児健診
健診の受診率、心理職等の参加、ことばや精神発達等に関する調査項目、配慮児の処遇、他機関との連携等 - 3. 幼稚園・保育所調査・・・個別的な配慮・支援・工夫を必要としている乳幼児(配慮児)について在籍状況、状態像、気づいた時期、気づいた人、保育に伴う工夫、就学時の小学校等との連携、職員研修等
【研究をして見えてきたこと】
- 乳幼児健診調査から
- 乳幼児健診はほとんどの地域で、集団健診の体制で行われていました。
- 1歳6か月児健診の受診率は95%以上、3歳児健診の受診率は92%を超えており、健診の場が発達障害児の発見・支援の場として有効になりうることが分かりました。
- 1歳6か月児健診では、ことばの発達に関する内容が80%以上の市で実施されていますが、人との関わりに関する調査内容の実施は低いことが分かりました。また、3歳児健診では多動・注意集中・音への反応等について65%以上の市で調査していることが分かりました。
- 事後指導(3歳児健診)の場は61%の市で設けられていました。対象児は、動きが多く落ち着きのなさが気になる子、言語発達や精神発達に遅れのある子、対人関係が気になる子等に実施されていました。
- 幼稚園・保育所調査から
- 発達障害児や配慮児の在籍状況は年齢が加算するに従って増えていました。
- 配慮児等の状態像は、人と関わることが苦手、こだわりが強い、集団行動ができない、動きが多く落ち着かない、指示に従えないといった様相を示す幼児が多いことが明らかになりました。
- 保育や教育における工夫は担任によるきめ細かな配慮が最も多い方法でしたが、個別の指導計画を作成した保育・教育実践や巡回相談の活用などは充分活用されていないことが明らかになりました。
【研究に関する情報】
- 健診実施後、事後指導としての集団指導(親子教室など)に子どもの情緒的な面や発達的な面を支援する心理職の参加率は保健師に比べ少ないことが明らかになりました。この傾向は、人口規模を問わず、全般的な傾向といえます。健診事業の役割に発達障害児の発見機能や支援機能を付加していき、また、発達障害児や配慮児のスクリーニングの精度を上げていくには、心理職の適正配置が必要と考えます。
- 健診実施に際して、事前にどのような内容の項目を調査しておくかで、心理・発達相談の必要性がある程度予測出来ると考えられます。それ故、健診事業に発達障害児の発見システムの機能を付加するなら、事前に母親からの聞き取り調査(問診表等)での発達や心理に関する内容と項目を整備していくことや心理・発達相談を実施するための基準作りが、各地域で早急に検討されることが重要と考えます。?
- 子どもの在籍機関(幼稚園・保育所)との連携は、保護者や子どもの立場に立ったきめ細かな配慮が必要なことは言うまでもありません。発達障害や配慮児が在籍する機関に保健師や心理職などの専門職が支援していくには、保護者が抵抗なく利用している保健センターが、連携のキーパソンになることで、保護者の理解が得やすいし、実りある支援が可能となることを考えると、保健センターを核とした福祉・教育等のネットワークの構築が検討される必要があります。
- 保健センターで母子保健業務を担う保健師や心理職は、幼稚園・保育所に在籍する発達障害児や配慮児に対する支援方法のアドバイザー役が期待されています。それ故、保健師や心理職をはじめ、発達障害児や配慮児の保育・教育にたずさわる保育士や幼稚園教諭への研修の機会の確保は、何よりの重要なことであり、その具体的な研修計画の作成が急務であると考えます。
- 集団生活という幼稚園・保育所生活の利点から、人と係わることが苦手、動きが多く落ち着きがない、等の状態像を示す発達障害児や配慮児を含む個別的な配慮などを必要する子どもが3・4歳児保育時までに漸増してることや、5歳児保育時に新たに気づかれる子どもがいることが明らかになったことから、幼稚園・保育所関係者が、発達障害児や配慮児についての理解を深めることで、乳幼児期の早期から、そうした子どもに気づくことや、それらの子どもに配慮・支援・工夫を開始できると考えます。
【研究組織】
後上鐵夫・大柴文枝・小林倫代・小澤至賢・大崎博史・藤井茂樹・有田祥子(所外研究分担者)・伊藤英夫(所外研究分担者)・熊本葉一(所外研究分担者)・菅井裕行(所外研究分担者)・滝坂信一(所外研究分担者)
【もっと詳しくお知りになりたい場合は】
こちらの報告書は、研究所webページにて全文掲載されています。
http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_b/b-218.html
【本研究紹介シートの文責】
後上鐵夫
本研究紹介シートは、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所で行った研究を基に作成しています。